従業員と業務委託契約
こんにちは
中小・零細企業の顧問契約をしていると、社長からこのような内容の話をされることがあります。
「従業員を業務委託契約に切り替えたいんだけど、できるかな?」
業務委託契約(以下、委託契約)は大まかに言うと従業員と違い企業の指揮命令で仕事したり勤務時間に対してではなく、仕事の結果(成果物)に対して報酬が支払われる契約です。
重い社会保険料
冒頭の会話で社長に理由を聞くと、
社会保険料の会社負担が多いから減らしたいとのことです。
20万円の給与であれば、ざっくりと会社の負担は月3万円(年間36万円)となります。人を多く雇用し、利益の薄い業種であればここをカットしたいと思うのも十分に理解できます。
たしかに、委託契約であれば会社の従業員ではないので社会保険に加入させる必要はなくなります。
また、従業員の中にも社会保険に加入したくないと申し出る人も少なからずいます。
では両者の合意があり委託契約を結べばそれで問題なく社会保険に加入しなくても大丈夫なのでしょうか。
「委託契約による社会保険の加入逃れ」
これは、行政側でも注視している事案です(今回のお話では、行政側は労働基準監督署・年金事務所を指します)。
なぜなら実際は従業員として働いていたにもかかわらず、委託契約と称し社会保険に加入させずにいた企業が調査の時に判明することが多かったからです。
ですので、行政側も調査の時に委託契約者がいると分かれば目を光らせてくると思います。
委託契約が実態に沿ったものであり従業員性がないと判断されれば、社会保険に加入させることはありませんが、そのハードルはかなり高く、結局従業員と判断され遡って社会保険に加入させられるといったことが多々あります。
委託契約として認められる主な要件
社長から相談を受けた時、委託契約として認められる条件を行政に確認したところ下記のようになりました。
〇 従業員扱いをしていない(事業主の指揮命令で働いていない)
〇 その仕事を受けるかどうかの裁量権が本人にある
〇 仕事の進め方を本人が決定できる
〇 時間的拘束がない(始業・終業時間で拘束していない)
〇 委託する仕事に対して報酬を支払う
その他、
〇 仕事を行うにあたり使用する機械・材料などを本人が負担
(企業の所有物を貸与する場合はレンタル料を支払っているか)
〇 社内規程(就業規則など)が適用されていない
〇 本人が確定申告をしている(会社で年末調整していない)
〇 労働・社会保険に加入していない
〇 従業員でないことを本人が理解している
これらと併せて委託契約書の内容や各個人の状況を踏まえて総合的に判断する。とのことでした。
委託契約が慣習的に根付いている業種であればクリアできていると思いますが、なじみのない業種でこれを実行するとどこかで綻びが出てくるくらいには大変だと思います。
委託契約と認められなかった場合
この場合、従業員としての身分になりますので労働基準法その他労働法が適用され、下記に該当する場合があります。
〇 仕事を完成させるのに残業するほどの時間がかかっていれば残業代の遡及支払
〇 報酬が給与扱いになるため、最低賃金の適用
〇 労働保険・社会保険の遡及加入
以上となりますが、社会保険料負担は社長にとって切実な問題でもありますが、委託契約切り替えはハードルも高く、リスクも高いものでもあります。
おわりに
一昔前、企業と従業員は家族同然であり、従業員の面倒を企業が見るといったこともありました。現代では企業と従業員の関係性も変わり、比較的ドライで割り切った関係になってきていると感じます。
どちらも一長一短あるものですが、従業員を委託契約に切り替えるというのはドライな関係をもっと進めた関係です。
従業員ではないので、先輩・後輩、上司・部下の関係もなく、教育・指導もできない関係性です(仕事の成果物に対しての要求はできると思いますが、、、)。
企業と従業員が共に成長し、利益を共有し社会貢献に繋げていきたいと考えているのであれば、この「委託契約切り替え」は取るべきではない方法であると私は思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。