助成金制度を利用するときは調査があることを前提に!
社労士が申請代行をする助成金は多岐に渡り、行政の審査も年々厳しくなっています。
助成金制度は中小企業にとって重要な資金源
社労士が助成金申請の代行をするのは厚労省管轄の助成金がメインになります。厚労省が助成金を支給する目的は「従業員の雇用の拡大・安定、従業員の定着・教育」に関するものが多くあります。
中小・零細企業にとって従業員を増やすことはコスト面から見てもリスクを増やすことになり、またギリギリの従業員の数では教育も十分にできません。
それをフォローするための助成金制度となります。
社労士の中にも助成金だけを業務にする事務所もあるくらいですので、企業にとっても社労士にとってもうまみのある制度です。
しかし、書類管理ができていない中小企業ではたとえ社労士が関与していても、あとで手痛いしっぺ返しをくらうことがあります。
助成金にはアメとムチが用意されている⁈
冒頭で行政の審査が厳しくなっているとお話ししましたが、助成金申請時の審査ではなく、助成金支給後の調査のことを指します。
中小企業の社長でこの支給後の行政の調査があることを知らない方も多くいます。
申請時の審査についてももちろん書類がきちんと揃っていなければ突き返されますが、申請自体は労働局や厚労省のホームページにマニュアルがありますので、そこまで難しいものではありません。そして支給申請をして問題がなければ数か月後に助成金が振り込まれます。
知り合いの社労士との会合の時に共通認識したことですが、助成金は、「入口は広く、出口がきつ過ぎる」でした。
入口とは申請時の受理、出口は支給前後の調査のことですが、
私が助成金の依頼を受ける時は社長にこの支給前後の調査があることを理解してもらってから受けることにしていました(※行政も人手が足りていないのか、助成金の種類によっては調査が入らないケースもあります)。
そして助成金という「アメ」に誘われ、調査という「ムチ」があることを知らなかったために下のような話が出てきました。
二度と助成金は利用しないと言った社長
知り合いの社労士に相談をした中小企業の社長が放った言葉です。ここの会社は支給前に行政の調査が入ったそうですが、助成金を受給する大変さが身に染みたからだそうです。
最初から社労士が関与していたわけではなく、調査の段階になって問い合わせがあったそうなのですが、最初の申請書類自体に問題は特にありませんでした。
助成金の種類によっては、支給条件を満たしたあとに従業員雇用後の状況を書類に記入したり添付書類の提出をすることがよくあります。
そして、この会社の調査時に注目されたのがこの添付書類1枚を用意できなかったことです。
その添付書類は求められている書類ではなく社長が間違って用意した書類だったそうです。社長は勘違いからこの添付書類を提出したのですが行政から指摘を受け正しいものを提出するよう要求されますが、その書類はすでに紛失してしまっていたとのことでした。
相談を受けた社労士も最初から関与していたわけではないので把握できず、結局申請否認という形で終わりました。
申請当初から支給申請の間の従業員の勤務状況を記入した書類や他の書類はきちんと用意されていたのですが、たった1枚の書類に誤りがあったために助成金が受けられなかった事例です。
おわりに
上の社長は、労力を使ってきちんと書類を作成していたにも関わらず添付書類1枚だけで否認されたことに落胆し、今後の助成金利用を諦めました。
行政側も当然融通を利かせることができる場面とそうでない場面があります。この助成金制度は会社や従業員が支払っている雇用保険料からも捻出されているので、正しく申請されていないものを認定するわけにもいきません。
そういったことを踏まえ、助成金には調査があって当たり前という気持ちでこの制度を利用するべきだと私は思っています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
法律は刀
こんにちは
しゃろんと申します。
社労士試験は法律の試験ですが、今回は私が参加した労働法の勉強会で法律の考え方について講師が話していたことをお話しします。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
「法律は刀です。抜いて相手を斬れば自分も返り血を浴びます」
とある労働法の勉強会で講師が話した言葉です。
刀は持っているだけで威嚇になります。
自分の日頃の態度や行動で法律を知っていると相手方に伝わるだけで争いにならずに済むこともあります。
抜かずとも場を収める、これが理想です。
まぁこうならないから司法の場に発展するわけですが、、、
常に臨戦態勢の従業員
とある中小企業である時から六法全書片手に出勤するようになった従業員がいました。
そこの会社は特にトラブルの種もなく、従業員ともうまくやっていて従業員が不利益を受けている状況でもありません。
その従業員の目的は、法律の勉強を始め自分が法律を知っていることをひけらかしたいためだったそうです。
周りの従業員も当初は勤勉なことに感心してその従業員を持ち上げ、本人もそれが癖になったのか、次第に法律を持ち出しては会社に改善要求をするようになり始めました。
中小企業と労働法
中小企業で全ての法律を把握することは現実として困難です。
従業員に言われれば無視できないと一つ一つ法律を精査すればそれだけで時間は過ぎていきます。
労働法の中には「できればやってほしい」といったニュアンスの努力規定があります。限りある資源の中で踏ん張っている会社が優先順位を無視してこれに力を注ぐのはナンセンスです。
少し話が逸れますが、
私は社労士時代にいろいろな企業の就業規則を見てきましたが、共通して冒頭部分によく見られる文があります。
「この就業規則その他規則に定めのないものは、労働基準法その他法令に定めるところによる」
ざっくりと、「就業規則で規定しきれないから載っていないものは”労働基準法その他法令”がうちの規則だよ」ということです。
法を遵守するわけですから特に問題もないように見えますが、
この一文が入っているということは、極端なことを言えば、会社は労働基準法その他法令を全て網羅し理解した上でここに規定しているということです。
会社によっては関わりの少ない項目もあるかと思います。
しかし、従業員がその法律に対する会社の対応がどうなっているかと回答を求めてきた場合、この一文があることによって全く関係のなかった法律も会社のルールとなり、会社はそのための時間を費やさなければいけなくなります。
就業規則は会社のルールブックですので、これを作った側の会社が反故にはできません。
そのため、最近の就業規則ではこの一文を規定していないものが増えています。
話が逸れましたが、
結局、この従業員の行動は”会社を良くする”ではなく、”引っ掻き回す”結果となり、徐々に周囲の従業員からも疎まれるようになり居心地が悪くなったのか、自主的に退職しました。
正しいことをするのは悪いことではありません。
しかし、むやみやたらに振りかざせば自分にもデメリットがある一例を今回はお話しさせていただきました。
今回も最後までありがとうございました。
士業は何でも屋さん⁈
社労士として開業したことを親戚などに知らせると色々な場面で社労士に全く関係のない相談が来ることがよくあります。
私自身にあったことは、遺産相続や土地の登記のお話しでした。
もちろん専門外ですし、社労士として受けていい仕事ではありません。
身内の話なので自分なりに調べて対応はしましたが、遠方でもあったため最終的には当事者親族で進めてもらい完結しました。。。
これは社労士だけに限った話ではなく法律に関わる士業というだけで、たとえ関係のない分野でも何となく士業の人間に相談するみたいです(私の親戚談)。
よくよく考えれば、それぞれの士業の分野をよく知っているのは資格のことをよく調べている人か、実際に仕事をしている自分達だけで世間一般的には細かい所まで知られていません。
雰囲気的に断りづらい場面もあるかもしれませんが、プロの士業として働いている以上、専門外の相談を請け負い報酬を受けてしまうと他士業の独占業務を侵してしまう恐れもあるので、きっちり線引きする必要があります。
これは身内に限った話ではなく、会社と顧問契約をしていると社長や事務担当の人から世間話レベルで上のような話をしてくることも多々あります。
もちろん他士業の独占業務を請け負うことはできませんが、ここでの対応も重要になります。
それは、対応できる人間を紹介できるかどうかです。
これは法律の話だけに留まらず、
例えば、社長が「こういった事をしたいがそれができる人を探している」といった時に自分にその分野の知り合いがいれば紹介することができます。
そういったやり取りが積み重なると、社長は仲介役としての自分を手放せないなと思うようになり、顧問契約の長期継続や顧問報酬アップの交渉が進めやすくなります。
営業の手法の一つではありますが、人と人を繋げる役目を自分が担う立場になれれば良い関係が続けていけるようになります。
割と範囲の狭い人付き合いをしがちな私ですが、
日頃からいろいろな業種の人達と交流を深めていくことで誰しもが得をする、
そんな関係が経験できたことを思い出しつつ今回はこのブログを書かせていただきました。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
特定社労士を取るべき本当の理由
社労士として登録した後、「特定社労士」の資格を取ろうかお考えの方もいると思います。
今回は特定社労士専任として活動する方以外(会社の一般的な手続き、相談を担う顧問社労士など)で、資格を取ろうか悩まれている方に私の経験談をお話します。
特定社労士になるまで
制度の詳しい説明は割愛しますが、特定社労士とは会社と従業員の労働法トラブルの解決のために、裁判ではなくADR(裁判外紛争解決手続)で行う場合に条件付きで代理人になれる資格です。
「特定社労士」を名乗るためには、
社労士登録者(有資格者ではダメ)が特別研修を受講
⇓
「紛争解決手続代理業務試験」に合格
⇓
社労士名簿に付記(登録)する
⇓
特定社労士として名乗れる
といった流れになります。
特定社労士の需要
昨今の状況を鑑みると、法律職の人数増加・SNSなどの発展により従業員側の権利行使がしやすい時代となっています。しかし労働法トラブルの解決を裁判に頼るだけでは時間も費用もかかるため、両者にとって良策ではありません。
そうなる前に和解をもって解決を図るわけですが、そこに労働法の専門知識をもつ社労士に白羽の矢が立ちました。要は弁護士の代理人業務の一部を得たことになります。
昨今の労働法トラブルの増加の影響で特定社労士の需要は高まっていると思いますが、まだまだ認知度は低いと思います。
会社と従業員の間でトラブルが起こる時というのは、従業員側が訴えを起こすことが大半です。会社側に顧問社労士がいて、その社労士が特定社労士であれば代理をする場合もあると思いますが、従業員側は一から代理人を探すことになります。
その時に特定社労士という言葉を知っていればいいのですが、圧倒的に弁護士の方が認知度があります。
さらに言えば、労働基準監督署や労働組合もありますし、例え従業員が特定社労士を知っていても紛争価額が120万円を超えれば社労士単独での受任ができなくなり必然的に他の選択をすることも少なくないと思います。
したがって需要は高まっているものの、特定社労士の地位・知名度をまだまだ高める必要性があると思います。
特定社労士は取った方がいい?
あくまで中小・零細企業の労務顧問として一般的な業務を行う方メインのお話となりますが、顧問先で労働法トラブルが起きた時に自分が特定社労士でなくても信頼のおける労働法専門の弁護士と知り合いになっておけばいいという手もあります(費用はかかりますが、、、)。
しかし私の考えとしては、それとは別に「特定社労士」は取った方がいいと思っています。
正確には、特定社労士として代理人になるためだけでなく特定社労士を取るための「紛争解決手続代理業務試験」の勉強をすることが必要だと思っています。
特定社労士を取るべき理由
社労士試験は選択式と択一式で科目内容は専門的な知識を問うものです。
労働法トラブルは労働法に拠りますがその根幹となるものは「民法」です。その民法を独学や他の資格を取るために勉強している方はいいのですが、社労士資格のみの方は民法に触れる機会があまりありません。
社労士も法律家と言われます。しかし社労士は専門性が高く、社労士試験でも専門知識メインで一般法である民法には触れません。
社労士としてレベル(ベース)アップするために根幹となる民法を勉強するべきというのが私の考えです。
特定社労士を取るための勉強をすれば必然的に民法に触れることになり、法律の基本的な考え方や論理的思考を学ぶことができます。
これが私が特定社労士を取った方がいいと思う最大の理由です。
おわりに
私も社労士登録して2年目に試験を受けました。合格率70%前後の試験で見事少ない方の30%に入ることができました。(笑)翌年には合格しましたが、、、
その後、約7年間、企業の顧問社労士として活動していましたがこの特定社労士を必要とする機会はありませんでした。運が良かったのか経験できずに終わったことが不運なのかわかりませんが、、、(労働組合が出てきたことはありますが、そのお話は別の機会にお話できればと思います)
しかし特定社労士という資格は将来性、また、過程の勉強も含めて社労士として取っておいて全く損のない資格だと私は思います。
試験対策として私が先輩社労士の方々に薦められ、私も利用した書籍をご紹介しておきますので、よろしければご覧ください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
顧問社労士の役割(行政調査立ち合い編)
こんにちは
前回のブログは、会社と従業員の間にトラブルが起こった時の社労士の役割についてのお話でしたが、今回は行政の立ち入り調査の時の社労士の役割についてのお話となります。
監督署や労働局の定期調査の場合、顧問社労士がいる・いないで相手方の対応が違うと感じたことがあります。
調査の内容は多岐に渡りますが今回のメインとして、
法定書類が揃えられているか、労働時間の管理や賃金の支払いに誤りはないかを調査するケースがあります。
顧問社労士がいない場合、調査官の目が厳しくなる?
これは知り合いの社長から聞いた話ですが、定期調査が入り法定書類の提出を行ったそうです。未払い残業代や特に違反もない会社で、多少の書類不備を指摘され社長はそれを直せば終わると思っていたそうですが、特に問題のない事項についてあれもこれもと書類を提出させられ、その準備に辟易して結果何もなかったということがあったそうです。
是正内容としては法定書類の不備を改善すれば終わりだったそうですが、痛くもない腹を探られ準備に相当な時間を割き、何でここまでされるのかと社長が嘆いておりました。
反対に、、、
あくまで主観ですが、顧問社労士がいる場合、会社に専門家がいると見られ比較的不要な調査まで及ばなくなるケースがあります。
もちろん、法定事項や就業規則などの規定が守られていなければ是正するよう指導が入りますが、違法とまでは言えないけど直すことが望ましいといった所までは是正内容に入ることが少なくなる感じがします。
調査官によって目の付け方が違うこともあるので一概には言えませんが、
顧問社労士が存在していることによって行政との意思疎通がしやすくなり、調査官も細かい所は顧問社労士に任せてもいいだろうという感じを受けました。
調査官も調査を実施した後、是正・指導結果を上に報告しなければならないと思いますが、社労士がいる会社に対しては「最低限是正すべき事項」と「今後社労士に任せて大丈夫な事項」を判別して調査を実施しているような感じを受けます。
おわりに
以上となりますが、定期調査の名目で実は従業員通報によるものだったり、担当調査官によって調査内容に差異が出ますので上記に当てはまらないことも当然ありますが、社労士がいれば専門家として会社に改善提案もできますので、行政に対し「会社が是正することに協力する姿勢」と「これからどう改善していくかを提案」を顧問社労士として示すことができれば行政の調査も乗り切れるのではないかと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
顧問社労士の役割(トラブル発生時編)
会社の人事・労務の顧問として業務を請け負う場合、
社労士は会社と契約をして業務を請け負い報酬を受けることになりますので、
会社がお客様となります。
顧問社労士の役割
労働法関連で会社と従業員の間でトラブルが起こり、その仲介役となる場合でも当然会社のためになる解決を図ることを望まれます。
従業員の訴えた内容に会社の明確な労働法の違法性があれば、それを正す方向にもっていくこともありますが、
単に、社長や上司とのコミュニケーション不足の影響で会社の方針や言動に対して不満がたまり会社に訴えてくるケースもあります。
そのような状況で話し合いをする場合、
社労士がいる会社といない会社で違いが出る時があります。
それは会社(社長や上司)と従業員が冷静になれるかなれないか、です。
コミュニケーション不足による行き違いでのトラブルで当事者のみの話し合いになると両者とも感情論になって問題解決に至らないこともままあります。(この話し合いがコミュニケーション不足解消になることもありますが、、、)
それが、第3者が間に入ることや、労働法の専門である社労士がいることで一歩引いて物事を考えられるようになり、本来の意味で問題解決ができるのではないかと思えるからだと思います。
会社にとって人材は重要な経営資源ですので、不要なトラブルを起こさず円滑な業務を進めることは会社にとっても重要な課題となります。
それを達成するサポート役として顧問社労士がいると私は考えております。
顧問社労士の立ち位置
トラブルのケースによっては社長や上司に苦言を呈することもありますし、
従業員側にも間違っていることははっきり伝えます。
従業員の中には会社の顧問社労士である私を「所詮社長の味方だろ」と思う方も当然います。
そういう方には「社長の味方ではありません。会社の味方です」と私は伝えるようにしています。
たしかに報酬の支払いで言えば、中小・零細企業であれば会社=社長からいただいているイメージで間違いではないのですが、私はトラブル解決にはそういったことを感じさせないように動くようにしていました。
社長や上司がいる場で話しにくいのであれば、場所を変えて従業員と2人で何時間も話したこともあります。
こういったトラブル解決の依頼で自分の利益を考えることができないダメ経営者でもありますが、、、(苦笑)
委託している社労士に苦言を言われれば社長も嫌な顔をすると思っていましたが、幸いなことにそういうことはありませんでした。
むしろ会社のためになったことに感謝してくれていました。
(もちろんそれを前提に動いていることが社長に伝わっていたからですが、、、)
私の顧問社労士としてのスタンスは基本会社側の立場ではありますが、会社の利益のためになるのであれば従業員の味方にもなります。
社長も従業員も社労士も、会社のため(自分を含めて)になるように動いているわけですから。
次回は行政の立ち入り調査に立ち会う社労士の役割のお話をさせていただきます。
今回もありがとうございました。